怖れ
毎日、いつも心を縛り付けている何かがある
それが怖れだと気づいたのはいつだったか
それは心臓の表面に薄く張り付いて、心をいつも締め付けている
心の中から出てくるものを遮り、また心の内部を探ることを不可能にする
何を怖れているのだろう
それはいつからあるのだろう
心の内に問うてみる
だが締め付けられた心からは何も返答がない
それは死か
それとも生か
それとも他者か
社会か
話の通じない人々かも知れない、とふと思った
そんな記憶が様々に思い出されてくる
話を聞く気のない大勢の人々の目を前にしてわたしは立ちすくむ
話をしなければならない立場というのは奇妙なものだ
話を聴く気のない人に何故話さなければならないのか
わたしは分かって貰おうと必死に話す
だが離れて冷たく座った目たちはこちらに歩いては来ない
分かって貰いたいと考えるのは過ちであったか
力ずくで分からせるしかなかったか
分かるのはその人だが、自然な帰結として分かるような状況というのはあるし、無理やりそれを作り出すこともできるだろう
話が逸れてきてしまった
そう、何を怖れているのか、ということだった
まな板の上の鯉のように、斬られるのを怖れている気もする
斬ろうとしてくる大勢の目
こちらから斬り返されるということは全く想定してもいないような、怖れてもいないような、サディスティックな目付き
沢山の目たちの前で神経は高ぶり、声はぶるぶると震える
怖かったが、逃げることは許されなかった
怖い上に、やりたくもなかったのだから、怖さは克服などできるわけがなかった
恐怖はやがて身体に固定され、心は縛り着けられてしまった
その前に逃げるべきだった
恐怖を感じたのを感じていないようなふりをして、ごまかせば、それは何処までも追いかけてくる
恐怖はきちんと感じて、認識しなければならない